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ろう難聴児利用者の44%が「孤立」こども家庭庁事業アンケートレポート
支援の乏しい地域に住むろう児・難聴児にオンラインで成長の場を届ける「サークルオー」。令和五年度のこども家庭庁「NPO等と連携したこどもの居場所づくり支援モデル事業」の中で実際に利用したろう児・難聴児の居る55家族へのアンケート実施(回答36家族)から、ろう児・難聴児の居場所の現状やオンライン支援の有効性について取りまとめました。
家族・学校・習い事、聴者に囲まれた環境で生活するろう難聴児
90%のろう児・難聴児は聴者(聞こえる)の親の元に生まれると言われている。
つまり、家族の中で自分1人だけ聞こえない人であることが多い。
また、近年では聴覚支援学校(ろう学校)ではなく、地域の学校に通う子どもたちが増えており、家族の中だけでなく、学校の中でも自分1人だけ聞こえない子どもであることが多い。
塾や習い事でも、聞こえない子どもは参加することさえ断られたり、入会できたとしても聞こえないことを考慮した合理的な配慮(口元がはっきり見えるように話す、筆談、手話など)が受けられないことが多い。
今回のアンケート回答者のうち約半数(16家族/36家族)において、サークルオーの利用動機として 「こどもが孤立している」 「ニーズにあった習い事がない」を選択している。利用者の中には、聴覚障害を理由に習い事への入会を断られるケースもいくつかあった。
またアンケートの回答者のうち、聴覚支援学校(ろう学校)に通っている子どもの同級生の平均人数は5〜6人であった。公立の小学校の1学級人数は26〜35人が最も多いことから、同級生が少ないといえる。
今回のアンケートで改めて、ろう児・難聴児の孤立という社会課題が明らかになりました。
地域で孤立する子どもに、オンラインの出会い・学び・体験の場を
「手話ができる先生が学校にも周りにもいない」
「聴覚障害のある同年代の子どもと出会える場所がない」
聴覚障害のある子どもを取り巻くそれらの社会課題を解決するために、
サークルオーは全国のろう児・難聴児に、オンラインで出会い・学び・体験の場を提供しています。
個別型授業では、週1〜2回、先生と子どもが一対一で授業をします。
授業と言っても、学校のように決まったカリキュラムで進むのではなく、
子ども一人ひとりのニーズに合わせて内容はカスタマイズされています。
例えば、住んでいる地域に手話を学べる場所がない子どもは、親子で手話の勉強をしています。
また、学校や塾の先生が手話できない場合は、サークルオーの先生に手話を使って学校の勉強を教えてもらったり、受験に向けた学習をしたりしています。
23年度は一年間で1278回の授業を提供しました!
集団型授業では、不定期で全国の子どもが集まりイベントや講演会などを行っています。
実験の授業では、日本全国8都道府県からろう・難聴の小学生が集まりました。この中には、普段は全くろう難聴の他児童と会うことのない子どももいます。
上の写真は、中高生を対象にした大学進学の相談説明会の時の様子です。
聴覚障害のある大学生をゲスト講師に招き、大学受験の勉強方法や、大学の授業に手話通訳をつけてもらうにはどうしたら良いかなど、当事者だから聞ける質問などをしていました。
23年度はのべ155人のろう・難聴の子どもたちが集団授業に参加しました。
そのうち、アンケートでは参加者の全員が「また参加したい」と回答しました!
自分が一番使いやすいコミュニケーション方法を使って、なんでも話せる場所
一口に聴覚障害があると言っても、聞こえの程度や育ってきた環境によって
一番使いやすいコミュニケーション方法は一人ひとり異なります。
サークルオーの中にも、手話を使う子どももいれば、声や文字の方を使用したい子どももいます。
また、人の話を聞く(見る)時は文字でやり取りする方がいいが、自分が話す時は手話が良いと言うように、一番良いコミュニケーション方法が受信と発信の時で異なる子どももいます。
それらを理解し、子ども一人ひとりのコミュニケーション方法に合わせて対話ができる場所として、サークルオーに価値を感じてくれている保護者・子どもが多いことが今回のアンケートでわかりました。
子どもたち本人に、先生のことをどう思うか聞いてみると次のような回答がありました。
「いろんなことを話せて楽しい」(小学2年生)
「色々教えてくれる頼りになる存在」(小学6年生)
「優しくて話を聞いてくれる先生」(中学1年生)
「思ったことが言える」(中学2年生)
「いつも色々な情報を配信してくれたり、相談に乗ってくれる存在」(高校2年生)
サークルオーが気軽に話したり相談したり、安心できる場所になれていることがわかり、とても嬉しかったです!
中高生の子どもたちにとって先生は「人生の先輩」
子どもたちは、日常生活の中で聴覚障害のある大人と対話ができる時間が少ない。
その中で、同じ聞こえない・聞こえにくい人だから質問したいことや共感してもらいたいことを話せる”授業”は学習時間以上の価値があります。
アンケートの回答を見ると、サークルオーの先生を「人生の先輩」「お兄さん/お姉さん」のように感じている中高生もいて、サークルオーの先生は一緒に学習をするだけでなく、メンターやロールモデルの役割も果たしていることがわかります。
サークルオーで嬉しかったこととして「自分の未来について話せたこと」「自分のしたいことを決められそう」を挙げている子どももいました。
また保護者も「家族にはできないことをたくさんしてくれる」「学校の教科を超えて社会のことを教えてくれている存在」と先生に対して思っているようです。
楽しい”授業”の効果。「笑顔が増えた」「コミュニケーションが増えた」「苦手だった勉強を好きになった」
保護者の皆さんに、サークルオー利用後の子どもの変化やエピソードを聞いてみると、嬉しい回答をたくさんいただきました。
「人との会話が苦手でしたが、日々の生活の中で起きたことや学校のことなどをサークルオーの先生に話そうと楽しみにするようになりました」
「人見知りの恥ずかしがり屋なので、最初は自分から手話をするのを戸惑っていましたが、気づいたら自然にニコニコして、手話で話しててみてて嬉しかったです」
「進路のことを前向きに考えるようになりました」
「毎回楽しみにしている様子があり、部屋からも笑い声が聞こえてくる。こんなに娘が声を出して笑うことは他にはないので、貴重な時間です」
事業報告書にはここには載せきれない利用者の声をたくさん記載しているので、ぜひご覧ください。
アンケートから見えた課題、子ども同士の深いつながり
集団型授業を通して、子ども同士のつながりを作りたいと思って実施してきましたが、他の参加した子どもとのつながりを実感したという回答はほとんどありませんでした。
2024年度は、オンライン上でクラスを作り、定期的にクラスメイトが集まり交流や勉強をすることで、大人とのつながりだけではなく、子ども同士のつながりを作ることに力を入れていきたいと思っています。オンライン上で出会った同じ境遇の友達との出会いが、目標に向かって頑張る力に変わることを期待しています。
2024年度とその先、サークルオーが目指すもの
「聴覚障害のある子どもが”自分らしい”人生の選択ができるようになってほしい」
2023年度はこども家庭庁の「令和5年度NPO等と連携したこどもの居場所づくり支援モデル事業」に選ばれ、無事助成期間を完了いたしました。
今回の連携を通して、サークルオーの居場所としての価値をこども家庭庁と共有することができたと考えています。
2024年度以降はさらに行政・医療との連携を強め、聴覚障害のある子どもがどこに生まれても、自分の将来に希望を持って人生を歩んでいける環境を作っていきたいと思っています。
また、子どもたちの居場所を提供し続けるため、より良い環境を作るためには安定した活動資金が必要だと強く感じております。2024年度は、継続して寄付をしてくださる方を増やすためのファンドレイジング活動に力を入れていきたいと思っております。
もしサークルオーの活動に価値を感じていただけましたら、寄付という形で子どもたちの未来を私たちと一緒に応援していただけると嬉しいです!